<すれ違い>
結婚を期に住んでいた1LDKのマンションを手放すことにした。
数社から査定を貰い、その中の1社を選び媒介契約を結ぶ。

いよいよ売却活動が始まる。

週末に4件も部屋を見たいという予約が入ったらしく、
もし良いお客さんがいたらすぐに決まってしまうかもとの事。

勿論なるべく高く売りたいものの、
早さも大切なので万々歳だ。

朝9時から予約が入っているらしく、
休日なのに早起きをし、そそくさと準備をして外出。

エントランスのところで営業担当者と挨拶を交わすと、
マンションの入り口で男性が一人電話をしている。

もしかしたら見学希望者かな?と思っていると、
案の定、営業担当者の携帯が鳴る。

すれ違い様に男性を見ると、見覚えがあるようなないような・・・。
<手応えあり>
外出先から戻ろうとした19時頃に、
営業担当から電話が入る。

「今終わりました。予約なしのお客様も来訪されたので、
合計6組のお客様となり、非常に盛況でしたよ!」

「それは良かったです。ありがとうございます。
反応はどうでしたか?」

「はい。特に朝一で来たお客様の反応が良かったです。
質問も多く、社宅から出なくてはいけないらしいので、必然性も高いです。」

今朝、入り口ですれちがったあの人か・・・。

「そうですか。分かりました。また進捗があったらご連絡ください。」
少しホッとしながら電話を切った。
<合致>
翌日ふとした時に思い出した。

昨日マンションの入り口で会った人は、
5年ほど前に仕事で絡んだことのある代理店の人だ。

数回しか会ってないし、感じも変わっていたので分からなかった・・・。
歳もほぼ一緒で、何というか気弱で、お人よし。押しに弱いタイプの人だった気がする。

「連絡しようかな?」
と少し迷ったが一旦連絡することは止めた。
<次週>
あれから1週間が経ち営業担当から電話が入った。

「例のご検討者から昨日連絡を頂き、前向きに検討したいと言われております。
但し、価格面で折り合いがつかない状況です。」

「そうですか。向こうは何と言っているのですか?」
知り合いだということは何となく伏せておいた。

「はい。3100万円まで下げてほしいと言われております。」

今回のマンションは3400万円で売りに出しており、
3300万円までであれば売っても良いと伝えている。

「なるほど。少し安いですね・・・。引き続き交渉お願いします」

電話を切った後、一つ疑問が残った。
あの弱気な人がそんなに値切るだろうか。
お金の事になるとまた別なのかな・・・、
とも思いながら明日連絡してみる事にした。
<嘘>
「お世話になります。大変ご無沙汰しております。
○○プロジェクトでお世話になった○○です。覚えていますか?」

翌日の昼休みを使い久々に電話をしてみた。

「あーお久しぶりでございます。勿論覚えています。ご無沙汰しております。」

覚えていてくれたようだ。

「ありがとうございます。実は仕事と全然関係ない話なのですが、
○○さんって○○のマンションの購入を検討されてませんか?」
「え??どうしてご存じなんですか?」
電話口で相手の驚いた表情が分かった。

入り口で見かけたことを話すと、
「あーそういう事ですね。ビックリしました。
○○さんのお宅なんですね。世間は狭い。笑」

確証を得たところで、いよいよ本題の値引きの話だ。
事の顛末を細かに話をすると、
電話口でみるみる怒りが込み上げてくるのが分かった。

「いえ、私はそのような交渉は全くしていません。
逆に営業担当者には『迷ってます』とお伝えしたところ、
では例えば3200万円ではいかがですか?と向こうから提案がありました。」

これには驚いた。
話を聞いていると、どうやら向こうの営業担当者は早めに物件を売ってしまいたいらしく、
私が飲む可能性のある3200万円で切り出したようだ。

それを、相手から3100万円の値引き交渉があった事にし、
自分の力で何とか3200万円まで引っ張りあげ、3200万円で納得いただけないか・・・
というようなストーリーにするようだ。

怒りを通り越して笑ってしまう話である。
<結末は・・・>
一連の話を聞いた後に
「先方にはこの事は私から伝えます。
またご連絡しますので少々お待ちください。」
と言い電話を切る。

2日後、営業担当者から電話がかかってきた。
いつもより若干明るめの声だ。

「もしもし○○です。例の検討頂いているお客様の件なのですが、
先日直接会い交渉してきた結果、
3100万円を何とか3200万円まで、引き上げる事が出来ました。
3300万円がご希望だったと思いますが、
お客様の数も少ないですし3200万円でご納得いただけませんか?」

苦労の交渉の末に勝ち取った事をアピールしている。

「そうですか、ありがとうございます。
○○さん、実はね・・・・」
事の顛末を全て話をした。

翌日菓子折りをもって責任者と2人で会社まで平謝りに来ました。

ちなみにこの物件は3300万円、購入者も売却者も手数料0円で取引を終了しました。